恩師-2 誠実なアドバイスをしてくださったY先生
◆教師が自分の教え子にアドバイスするのは結構難しいものです。特に将来の道についてアドバイスする時には、できるだけ自分に責任が及ばないように当たり障りのないアドバイスに終始しがちです。
では、本当に誠実なアドバイスとは、どのようなものなのでしょうか。
私は、小学校で出会った若い男性教師に憧れ、教師を志し、この思いは変わることはありませんでした。
しかし、中学校の理科を担当してくださったS先生の強烈な授業に胸を打たれ、小学校教師から中学校の理科の教師へと希望を修正しました。
S先生は、教科書を使わず、ご自身が作成されたプリントを中心に授業を進められました。実験についても教科書の枠にとらわれることなくダイナミックで、私達生徒の好奇心を大いに湧き立たせてくれたものです。
学級全員で手をつなぎ、高電圧の電源に触れ、全員の腕にドンという衝撃を感じる電気の実験、今思い出しても衝撃的です。
また、S先生の他の魅力として、話術があります。ご自分の経験談等を上手に脚色され、言葉巧みにその世界へ誘うのです。
教室は爆笑の渦となり、気が付くとメリハリの効いた授業となっており、理科の学習内容についても良くわかる楽しい授業でした。
教師を目指していた私にとっては、新たな教師像との遭遇です。
中学校でそこそこの成績を取ったものの、N先生の出身校、U高校には届かず、O高校に進学した私は、その後、N先生と同じS大学へ進学することができました。
しかし、私が学んだ学科は特別支援学校教員養成課程であり、小学校と特別支援学校の教員免許状しか取得できない学科でした。
何とか中学校・理科の免許状を取得できないものかと、あれこれ模索したのですが、力及ばず、理科の免許状は取得できないまま卒業を迎えることとなりました。
私は、将来中学校の理科教師になる夢を叶える方策を模索し、思いついた案をO高校の恩師Y先生に相談に行きました。
Y先生は物理を専門としており、物事をハッキリ指導することには定評のある信頼できる先生です。
Y先生は私の来訪をとても喜んでくださり、私の話に笑顔で耳を傾けてくださいました。「S大学を卒業したらT理科大学を受験して、中学校の理科の免許状を取得したいと思っています。そして、中学校の理科の教員採用試験を受験しようと考えています。いかがでしょうか」
Y先生の答えは即答かつ明確でした。
「不可能!千葉には理科の免許を取ることは難しい。物理を教えていてよくわかる。千葉は、S大学で小学校の免許状を取れるのだから、小学校の教師になりなさい。小学校の教師になってからでも中学校の免許は取れる」
この明快なアドバイスに、スッキリと心が晴れました。
信頼し、尊敬しているY先生の言葉です。しかも、全く躊躇せずに、ズバンと胸に直球を投げ込んでくださったのです。
私の進路は、この時に明確に定まりました。
S大学を卒業して、小学校の教員採用試験を受験、合格したものの、採用は特別支援学校となりました。
そこで、4年間勤務している間にN大学のスクーリングに参加し、中学校と高等学校の免許状を取得することができました。Y先生の仰ったとおり、働きながらでも中学校の免許状を取得することができたのです。
ただ一寸変わったのは、免許状の教科が理科ではなく、社会科になっていることでした。よく、文系、理系という分類の仕方をしますが、私は典型的な文系だったようです。
Y先生は、私に物理を教えてくださりながら、そのことをいち早く察知され、誠実に、私のためを思って、あの時アドバイスしてくださったのです。
教師の一言やアドバイスが、その子の一生を左右することもあるものだ、ということを身をもって学ばせていただきました。
私はY先生のアドバイスに今も感謝しています。
もし、私が教え子から同様の相談をされたらどうしたでしょう?
「一度しかない自分の人生です。悔いの残らぬようにやってみるがいい。やらなかったことを後悔するよりも例え結果はどうであれ、挑戦することが尊いと、先生は思います」
私の気質からすると、きっとこんなアドバイスをするでしょう。
一見、相談者に寄り添っているようなアドバイスに聞こえるかも知れませんが、果たして、このアドバイスは本当に誠実なものと言えるのでしょうか?
Y先生へ感謝しながら、今でも自分自身に問いかけ続けています。