学校教育ー32 子どもたちの社会性を育む集団遊び
◆「心の教育」は、学校教育でも常に最重要課題です。子ども達のいじめや不登校、自殺は、令和の時代になっても深刻な社会問題であることの変わりありません。学校教育では、この問題を解決するために、道徳を教科の学習に位置付けるなど、工夫と研究の手を緩めることはありません。
子ども達の様子を見ていると、自分の考えを相手に伝えたり、協調したり、我慢したりすることが年々苦手になっている印象を持ちます。特に、SNSが全盛になってから、言葉の省略、感情が移入出来ない言葉でのやりとりが子ども達の日常のコミュニケーションとなっています。相手の表情や様子を見て、言葉を選んだり、声や表情を変化させたりすることが明らかに苦手になっているのです。
学校生活でも友達間でトラブルが生じると、必ず自分の正当性ばかりを主張し、責任を誰かの所為にしたがります。友達に押し付けられない場合には、そのような状況を放置していた教師の責任を問う始末です。
今は、子どもの喧嘩に親が出るどころの騒ぎではありません。親が弁護士を雇って出てくる時代です。一昔前は「子ども同士のことだから、お互い様」と笑って済ませていたことが法廷に持ち込まれてしまう有様なのです。
さて、話しを戻しましょう。このように自分本位な子ども達が三十人も集まれば、学級は烏合の衆となりかねません。集団生活をする秩序や団結力を指導し、子ども達が仲良く生活を送れる学級に作り上げることが教師の重要な仕事となります。
そのためには、子ども達の社会性を育まなくてはなりません。社会性とは「集団をつくり、他人と関わり合いながら生活しようとする人間の本質的な性質」のことです。自分のことしか考えられない子ども達の社会性を育むためには、私の経験からすると集団遊びがとても有効です。特に身体接触(押し合いへし合い)の多い集団遊びが子ども達の心をとらえました。
私が担任時代、平成の時代の遊びです。Sケン、海賊船ゲームはその好例と言えます。
二つの遊びともルールは単純で、敵陣地にある宝物を奪うゲームです。Sケンでは、片足でケンケンしながら相手と片足立ち相撲、海賊船ゲームは、体育館にランダムに敷いたマットを船や陸に見立てて、その上で相撲をして、相手を海に落とします。
当初は、相手の反則を主張するなど、トラブルが続出します。中には大喧嘩して殴り合いに発展してしまう場面さえ有りました。
しかし、それでも子ども達は、これらの遊びを好みます。やがて回数を重ねると、ルールを守り、チームワークと作戦を重視し、ゲームが終わればノーサイドの精神を自然と持つようになりました。
また、日頃乱暴で暴力をすぐに振るっていた子どもが女子や運動が苦手な子に対して、手加減するような場面も見られるようになったのです。
子ども同士で取っ組み合いをしているうちに、頭や背中など攻めてはいけないところも自然と理解しました。事実、このゲームをするようになってから、子ども同士の喧嘩で、暴力を振るうことはほとんど無くなりました。思い出せば、自分が子どもの頃も、砂場で取っ組み合いや相撲をしながら危険な暴力を体験を通して理解し、封じたものです。
ある医師は、子どもの内に、感情が一気に表出するような夢中になる体験を沢山させることが、その後の成長に役に立つとアドバイスされていたのを思い出します。
丁度、子犬同士が夢中になって嚙み合っている姿をイメージしてしまいます。噛み合っていても相手を傷つけるようなことはしません。力の加減を遊びながら学んでいるのです。
子ども達にこのような集団遊びをさせる空間と時間、仲間は、現在、学校にしか残されていないのかも知れません。いわゆる「三間(空間、時間、仲間)の消失」です。
地域の広場で子どもたちが放課後に自然と集う姿は、昭和の時代の幻影となってしまったのでしょうか。