学校教育ー11 教師の商売道具「話し方」(話術)
◆教壇に立って一番工夫したことは話し方(話術)です。子どもは正直です。教師の話し方の善し悪しによって反応が全く異なります。ですから話し方は、教師の指導力の重要な要素といってよいのです。では、どのような話し方が子どもたちの胸に届くのでしょうか。
そもそも、人は自分が話したいことの約6割程度しか表現できないと言われています。また、聴き手は話し手の話の内容の約8割は聞いておらず、話し手の表情や発せられた単語を記憶すると言われています。つまり、どのように内容を練っても、その表現方法を工夫しない限り、子どもたちの胸にまでは届きません。
バラク・オバナ元大統領の演説技法には、笑顔、ユーモア、自分事への置き換え、身振りなどを効果的に活用し聴衆を惹きつけたそうです。その話し方は、メディアでも何度も取り上げられていました。
小泉純一郎元首相は、短いセンテンスをキャッチフレーズに使い、気迫を聴衆に伝え支持を受けました。
また、武田鉄矢氏の金八先生は、絶妙の「間」と生徒とのやりとりを巧みに使いながら、視ている私たちまで彼の教え子に変えてしまいます。
噺家の林家たい平氏の講演も感動的でした。ユーモアとご自身の経験を織り交ぜながら巧みに起承転結をつけてお話しになられます。涙あり、笑いあり、とった話の構成力も絶品でした。
このように優れた話し手は、独特の力を持っています。まねをしようとしても一朝一夕にできるものではありません。毎回の授業を通して、子どもたちの反応を確かめながら、膨大な失敗の中から小さな成功を探し出し、自分の力に紡いでいくしかありません。
私が、今まで研究してきた自分流の話し方のポイントは主に次の5点です。
(1) 聴き手全体へ視線を合わせるようにして、姿勢を正し、笑顔で明るく話す。
(2) 伝えたいテーマは、導入、真ん中、結びの3か所に短いセンテンスで繰り返す。
(3) 聴き手に分かりやすい例えを具体的に使用する。
(4) 与えられた時間を絶対に守ること。途中でも時間がきたら打ち切る勇気を持つ。
(5) 話すことは、自分で調べて準備した10分の1程度に凝縮する。
また、話す際には長嶋茂雄さんをイメージして、テンポと聴衆への気遣いを欠かさないようにしています。長嶋茂雄さんは、いかなる場面でも決して他人に不快感を与えません。その場にいる人達が、皆幸せな気分になるのです。このように話し手と聴き手が一体となれる話術は、最高の話し方と言えるのではないでしょうか。
さて、私が考える「話す時にやってはいけないこと」は、原稿の棒読みと決死の覚悟でギャグを言おうとすることです。この二つは、確実に聴き手を置き去りにしてしまいます。
聴き手の立場に立って、話の内容を構成し、聴き手に寄り添って語りかけるように話すことが基本です。一流シェフのお客様に合わせた料理を提供するのとどこか似ているような気がします。
奥が深く、研究すればするほど難しくもあり、楽しくもあるスキル、それが話し方(話術)です。