職場ー8 若い教師の長所を伸ばす
◆後進を育成するのは、どの職場でも喫緊の課題と言えます。学校でも、教師の年齢構成が、平成の終わり頃から急激に変化しています。団塊の世代が退職したため、大量の若手教師が採用されているのです。
そこで、よく聞かれるのが「最近の若い教師は・・・」という言葉です。これは、私たちが若かりし頃にも先輩たちから言われた常套句でもあります。
つまり、いつの世でも先輩たちは自分のことを棚に上げて若手の至らない点を指摘したがるので、この言葉を口にするのでしょう。
また、このことは、先輩たちが自分の能力と比較して若手に不足している部分を指摘しているのだと思います。ある意味では、若手を育成しなければ、という使命感から来ている言葉とも受け止められるのではないでしょうか。
私が特別支援学校から通常の小学校へ転勤した時、教職5年目でありながら、右も左も分からない状況に陥りました。日々の授業の内容が全く異なるからです。
また、若さを買われて体育主任を任せられていたのですが、このことも大きなプレッシャーでした。
右往左往しながら日々の教材研究に明け暮れていたのですが、音楽を除く全ての教科を担当しているので、毎日、教科書と指導書を家に持ち帰っては、睡眠時間を削って教材研究をしていました。
そんな私を見て、教務主任は「千葉先生は、体育だけ教材研究してごらんなさい。ひとつの教科を研究していれば、他教科への転用も効きますから。体育に絞って教材研究しましょう」
もう一人のある先輩は、教務主任とは全く異なり「小学校は全教科を教えるのだから、体育だけではなく、全部を平均的に教材研究しなければなりません」と助言してくれました。
私は、教務主任の助言に従うこととしました。当時、肉体的にも精神的にも私は限界に達していたのです。
体育一本に絞って教材研究しました。
すると、不思議なもので、地面に足が着いた感じになり、他教科の授業もそれなりにできるようになったのです。その代わり、体育に関しては猛烈に勉強しました。
さて、教師には実に多様な能力が求められます。
教科指導力、集団を指導する力、体力、話術、文章表現力、保護者への説明・折衝能力、さらには、円満な人間力まで。
こうなると、若い教師に、全てを望むのは到底無理な話です。ベテラン教師でさえ、全てを備えている者は極僅かなのです。
それなのに、ベテランの教師たちは、若手教師に自分が思うあらゆる全てのイメージを望み、要求してしまうのです。決して若手を苦しめようとしているのではありません。良かれと思って、思いつくこと全てを助言しているのです。
しかし、経験のない若手の教師には、その人が持っているよい点(長所)を見出し、それを伸ばすような助言をした方がよいのではないでしょうか。
長所を伸ばして短所をカバーすればよいのです。
プロ野球選手でも、ホームラン、打率、打点、走塁、守備、全てにおいて完璧な選手は一握りしかいません。
教師の世界もそれと同じです。みんなが三冠王にはなれないのです。ホームランを打つことに長けていれば、取り敢えず、打率や守備はこっちに置いておきましょう。得意な能力を存分に伸ばしてあげること、それが教師だけでなく、若手教師を育成する大きなコツだと思います。
私は、当時の教務主任の助言がなければ、そのまま心身を壊して潰れていたかも知れません。
今でも教務主任の言葉は私にとっての宝物となって輝いています。