卒業生を送り出すということ 「教育は愛」No.67

学校教育

学校教育ー24 卒業生を送り出すということ

◆教員の報酬は、民間企業に比べれば大きな変動はありません。どのように素晴らしい教育を展開したとしても、特別なボーナスの支給はありません。

 しかし、お金ではない素敵な報酬もあります。子どもたちと紡いだ絆から、得られる温かい感情の報酬です。

 この報酬が忘れられなくて、教職の道にのめり込む教師も多いのではないでしょうか。特に、卒業生を送り出す時には、特別な感情が体全身を貫きます。

 一生涯忘れられない思い出となり、教員生活の糧となることも少なくありません。

 卒業学年を担任すると、その1年間は目の回るような忙しさに追われます。運動会、修学旅行を終えると、卒業アルバムの作成や、卒業関係の準備に追われます。

 また、音楽会等の行事でも、最高学年として、模範を示さなくてはならないので、仕上がりにもこだわり、時間もかかるものです。そのように目の回るような1年間を経験するのですが、一つひとつにピリオドを打つ度に、子どもたちの目覚ましい成長が感じられるようになるのです。

 やがて、年が明け、残り日数が僅かとなると学級の凝集性も高まり、担任との心の絆もピークを迎えます。子どもたちからは、「中学校になっても先生のクラスがいい!だから、一緒に○○中学校へ来てください」という嬉しい言葉が聞かれるようになります。

 これも、卒業生を担任する教師だけが得られる報酬の一つです。

 そして、卒業式の練習に明け暮れ、子どもたちは、思い出のために、サイン帳を回したり、友達同士で手紙を交換したりし始めます。中には、担任に向けて学級全員で色紙に寄せ書きをしてくれる学級もあります。

 そして、いよいよ卒業式当日を迎えます。

 朝から学校全体が特別な空気に包まれる日です。式が始まり、卒業証書を授与した後は、校長式辞、来賓祝辞、その後卒業生からの歌や呼びかけがあります。この時の子どもたちの表情により、会場全体が涙したり、感動したりします。

 私は、小学校の卒業式を担任、教頭、校長として参加しました。中学校の卒業式には、来賓として参加させていただきました。

 中学校の卒業式の退場の時です。生徒が退場する直前に、担任の先生の名前を呼び、感謝の言葉を全員で発する場面を何回か拝見しました。この時は来賓として参加している私でさえ、目頭が熱くなってしまいました。生徒たちと担任との今までの絆の深さを思い、今までの学校生活に思いを巡らせてしまいます。

 担任時代の話です。

 私は「3年B組金八先生」のある場面が大好きでした。金八先生が卒業生を送り出した後、一人教室へ戻り、窓越しの夕日を浴びながら生徒の机を両手でがっちりと抱えるように触れながら、生徒の名前を愛おしそうに呼ぶのです。その場面を見て涙を流し、自分も教師となって卒業生を送り出した時にはこれをやろう、と心に決めていました。

 実際、やってみると、子どもの机に触れた途端に、今までのその子との思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、涙が溢れました。

 全員の机を回り、別れを告げた後、涙をぬぐい、教室を後にしました。

 これこそ、教師に与えられた素敵な報酬です。

 これは私の想い出です。世の教師には、これに類する沢山の卒業に関わる想い出があるのではないでしょうか。その想い出は、全て教師への報酬です。その報酬を胸に刻みつけて、教職への思いをさらに深め、来年度への意欲を燃やすのです。

 卒業生を送り出すと教師としての経験の引き出しが増えます。同時に教師としての力量も一回り成長させてくれます。

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