学校教育-29 水泳授業の民営化に思うこと
◆小学校の水泳授業が、スイミングスクールに委託するケースがいろいろな自治体で散見するようになりました。
私が勤務している学校も本年度より水泳授業の民営化を試行しています。スイミングスクールのインストラクターによる授業を目の当たりにして、体育科教育を長年研究してきた私は、大きな衝撃を受けました。
スイミングスクールのインストラクターによる授業は、効率がよいのです。子どもたちが、水の中に入っている時間密度が学校で実施している水泳授業と比べて、圧倒的に違います。密度が濃いのです。
6コースある25mコースに泳力別に子どもたちを分け、1コースずつインストラクターがついて、子どもたちを指導します。
担任の教師は、プールサイドで子どもたちの学習状況を確かめながら、記録したり、インストラクターの補助をしたりします。
私も授業の様子を参観しましたが、子どもたちがプールの中で学習している時間が従来の学校で行っていた水泳授業とは段違いに異なりました。
学校では、プールサイドに集合し、入念な準備運動とバディシステムの確認、バディシステムとは、2人で組み、プールを上がった時に互いに安全を確かめ合うシステムのことです。これは、大人数の子どもたちを安全に指導する上で欠かせないシステムです。
その後、シャワーを浴び、プールに入る準備を行います。水慣れの運動と呼んでいるものです。足、頭、胸と心臓から遠いところから水をかけ、プールに入り、潜った後、プールの横、約13mをゆっくり歩きます。それが終わるとけのびやバタ足で往復します。これを全体で行うだけで既に40分間くらいの時間を使っています。子どもたちを能力別に分けて指導するのに30分間、自由練習時間が10分間、学習のまとめと整理運動などで10分間という具合です。水泳の学習は45分間×2コマで実施する場合が多いので、子どもたちが自分の課題を解決するための学習時間は約30分間、しかし、その30分間もプールの中に入って実際に泳いでいる時間は?と考えるとかなり少なくなってしまいます。
さて、スイミングスクールの授業は、準備運動の後、課題別のグループに分かれてすぐにプールへ入ります。その後、インストラクターが水の中で、子どもたちに指導してくれます。子どもたちは、プールの中で自分の課題に合った学習をたっぷり45分間はできるのです。その様子を参観し、学習密度の濃さに驚きました。と同時に、今まで私たちが行ってきた水泳授業の学習密度の薄さを実感しました。
水泳学習は、水の中で運動して、はじめて身に付くのです。インストラクターのように、水の中で手取り足取り指導することは、とても理に適っています。
子どもたちの安全を理由に、儀式的活動が多かった水泳学習に改めて疑問を感じました。
かつて、水泳学習は、授業だけでなく夏休みに入ってからも水泳ができる登校日がありました。お盆前まで、練習を重ね、お盆明けには水泳検定を実施していました。ですから、水泳の授業で学習したことが夏休み期間に十分に習熟できたのです。
市で水泳大会も実施していました。
今では、教師の働き方改革や水質管理の経費節減などを理由に、水泳学習は1学期で終了します。夏休みのプールは休業状態です。
以前、民間人校長を導入して、変化に鈍感な学校教育に一石を投じた時期がありました。賛否両論でした。
しかし、今回の水泳授業の民営化を目の当たりにして、民間のノウハウを公立の学校教育をアップデートさせるための参考にすることの必要性を深く感じました。