学校教育ー93 ある保護者の挑戦
◆夏休み期間中に、新しく教壇に立つことを夢見て、教員採用試験に挑戦している方が数多いらっしゃいます。この時期になると一人の保護者のことを思い出してしまいます。もう、10年以上前のこと、私が担任時代のことです。3年生、4年生と持ち上がって担任させていただいた女の子のお母さんでした。
当時、私は学級通信を毎日発行し、保護者の皆様との連携を深めていました。学級通信には、保護者の方からも「一言日記」と称して、寄稿していただきました。
また、学級懇談会でも毎回、テーマを定めて勉強会形式で実施し、保護者の皆様と子どもたちの教育の在り方についてディスカッションしたものです。
このようにして、過ごした日々は、私にとって大変勉強になる実りある年月でした。
そして、学年末のことです。最後の学級懇談会を終え、笑顔で散会した後、一人のお母さんが私のところへ報告に来てくださったのです。
「千葉先生に2年間、娘がお世話になり本当に有難うございました。実は、私も昔、教師を目指したことがあったのです。千葉先生の教育を目の当たりにして、私ももう1回、教師を目指すことにしました」
嬉しい言葉をいただきました。私は、お母さんの決意を称賛し、固い握手をしてお母さんの挑戦にエールを贈りました。
それから数年後、私は教育委員会で勤務するようになりました。
そして、初任者研修会で新任の先生方へ講義する時です。なんと、あの時のお母さんがいらっしゃったのです。
休憩時間に、お母さんのところへ駆け寄り、お祝いの言葉を贈りました。お母さんは、照れながら「有難うございます。この中では、私一人おばさんなのですが、今、とても楽しいです。初任者教員として、がんばります!」と満面の笑顔でした。
主婦生活を長くされてからの教員採用試験へのチャレンジ、新卒の先生方に交じっての初任者研修、勇気と根気、そして、何よりも熱意が必要です。
その後も、このお母さんは、持ち前の優しさと聡明さを発揮して、子どもたちや同僚、保護者から慕われる教師として大活躍されています。
教員採用試験にチャレンジし、教師になっている教え子はいますが、保護者の方は、このお母さんお一人だけです。
忘れられない出逢いのひとつです。