体育授業ー20 (中学年)体で表現する楽しさ
◆小学校の体育授業には、表現運動という学習領域があります。運動会で発表されるダンスも表現運動のひとつです。
低学年では、身近な動物や乗り物になりきって真似たり、軽快な曲に乗ってリズム遊びを楽しみながら学習します。
中学年になると題材(テーマ)を選び、自分たちでその特徴をイメージして体で表現することを学習します。
ここで二つの壁が現れます。恥ずかしさと動きのぎこちなさです。
恥ずかしさは、みんなの前で踊ることが恥ずかしい、男女で協力するのが恥ずかしいという発達段階からして至極当然な壁です。この壁を乗り越えるためには、教師の笑顔と見本、子どもたちを曲や笛、タイコの合図を使って動きのリズムに引き入れることによって、ある程度は解決できます。
教師自らが恥ずかしがらずに子どもの前で踊り、体を動かすことがポイントになります。
もう一つの壁はなかなか手ごわいものです。
4年生のL君は、運動が苦手です。しかし、何事に対しても一生懸命に努力できる子どもでした。表現運動の授業でも懸命に体を動かしています。ところが、L君が、思い切り指先を伸ばしているつもりでも、端から見ると全く伸びているように見えないのです。L君の動きは全てにおいてこの調子です。
よく観察していると、L君は、自分の体が今、どのように動いているのか、具体的なイメージを持てていないようです。そこで、私は実際にL君の体を補助しながら、
「真っ直ぐ伸ばすというのは、ここまで指先を伸ばすことを言います」
という具合いに指導し、体育館に設置されている鏡の前にL君を連れて行き、一緒に体を動かしながら指導しました。
このような指導を繰り返している内に、L君は、自分の体の状態を少しずつイメージできるように変わりました。動きに固さがなくなり、スムーズに動けるようになっていったのです。
元々の柔軟性は、すぐには解決できませんが、動きのぎこちなさは解消できました。何よりもL君に笑顔が出てきたのです。
心身がほぐれた証拠です。
平成の時代から令和に至るまで、L君のように自分の体がどのように動いているのか、分からなくなっている子どもが増えているようです。
原因は、前にも述べましたが、幼児期の運動経験の不足です。
幼い頃から多様な運動経験を積み重ね、自分の体がどのように動いているのかをイメージできるように感覚を磨いておきたいものです。
具体的には、回転した時の感覚、高い所から低い所へ移動した時の感覚、体を変形した時の感覚、逆さになった時の感覚などです。
それらの基本的な感覚があって初めて、思い切り体を動かして表現する喜びを味わえるようになるのです。
☆幼児期から、多様な動きを経験させ、基礎的な感覚を身に付けておけば、自分のイメージした通りに体を動かすことができるようになります。思い通りに体を動かして表現できるようになると、心も体もほぐれて、やがて、自分に自信を持てるようになります。
※No.120の体育授業ー11からNo.136の体育授業ー20までは、中学年の体育授業を中心に書かせていただきました。体育授業ー21からは、高学年の体育授業について書かせていただきます。