教師ー32 年度末の風景
◆年度末になると私の好きな風景があります。担任の先生や学級の友だちとの別れが辛くなり、子どもたちに独特の哀愁が漂うのです。
今日も、中学年の男子が一人で校長室を訪ねて来ました。以前にもよく、足を運んでくれ、自分の描いた絵を見せてくれたり、勉強のことを教えてくれたりした子どもです。
「久しぶりに校長先生に会いたくて来ました」笑顔で、校長室のソファに腰掛けます。
会話は、授業のこと、外遊びのこと、友だちのこと、担任の先生のこと、愛犬のことなど多岐にわたりました。しばらく、時を忘れて会話を楽しみました。
すると「校長先生、今のクラスはみんながとても仲良しです。担任の先生もとても優しくていい先生なんです。このまま、来年も上の学年にあげてくれませんか?」
と思い切った目をして私に訴えます。
「そんなにいいクラスなんだ。担任の先生も優しいんだね。そう言えば、○○さんのことを担任の先生も誉めていましたよ。そのままあがりたい気持ちも分かりますね」
「そう、でも無理ですよね。いいんです。分かってますから」と私の言葉を遮るようにして立ち上がります。
「そろそろ時間だから帰ります。今日はありがとうございました」
後ろ姿が淋しそうでした。
私は、この年度末に、担任教師や友だちに対する深い愛情をもち、みんな一緒に上の学年にあがりたいという子どもたちの声を聞くと、嬉しくなります。
担任時分は、その声を聞きたくて、1年間、頑張り続けたように感じます。教師にとって最高の報酬だと感じていました。
校長になって思うことは、どの学級もこうであってほしいということです。みんなが、別れを惜しみ、互いに愛おしがっている、そんな風景を眺めてみたいものです。