家庭教育ー15 母の教え
◆母がまだ生きていた時のことです。母と二人で祖母の墓参へ出かけました。車の中で久しぶりに母といろいろなことについて話しました。私が、初めて耳にする内容もありました。その話のひとつをご紹介させていただきます。
母があるデパートで販売に入った時、周囲から何かにつけて、いじめられていたそうです。そんな状況でも母は「私は、みんなのために仕事をしている」と自分に言い聞かせ、人が嫌がる仕事も積極的にこなしていたそうです。
すると、はじめはよそよそしかった人たちも一人、二人と、次第に母に協力してくれるようになったそうです。そのうちに、周囲の人たちは母を信頼し、頼りにしてくれるように変容しました。
母に最も辛くあたった人は、周囲からの信頼もなく、やがて、その職場から惜しまれることもなく姿を消してしまったということです。
母は、その時のことを振り返り、私にこう話しました。
「最初は、私が周囲の人たちのために仕事を頑張っていた。しかし、そんな私の姿を見て、やがて周囲の人たちが私のために仕事をしてくれるようになった」
私の母は昭和11年生まれ、意地のある人である。決してへこたれたり、弱音を吐いたりする人ではありませんでした。今まで、決して恵まれているとは言えない職場でも、懸命に働く姿を通して皆から信頼され、その力をいかんなく発揮していた。
その裏には、母の人間学が脈々と息づいている。不言実行を旨とし、他人の悪口を言ってくる者は寄せ付けない。仕事と私的な面はきっちりと区別して、職場に臨んでいました。
そして、母は明確な仕事観も持っていました。決して人に媚びること無く、自分の目の前にある仕事に全力投球する。不平不満は一切口にしない。
徒党を組んで仕事をする女性を多く目にしてきたと言います。徒党を組んで存在感を示しても、利益を上げることができなければ、結局は仕事を逐われてしまいます。そういった人たちを沢山見てきたそうです。
母のプロ意識には、今でも脱帽してしまいます。私には、母のような意地がまだまだ不足しています。
母を今でもリスペクト、そして、感謝の気持ちでいっぱいです。