体育授業-17(中学年)相撲の効果
◆小学校には、「力試しの運動」という学習内容があります。全力で人や物を押したり、引いたり、支えたりする力試しです。
その中で、ぜひ指導したいのが、相撲です。
片足相撲、押し相撲、通常の相撲等、多様な相撲が考えられます。
私は、中学年の体が柔らかい時期に、相撲を沢山経験させた方がよいと考えます。
今の子どもたちは、全力で走ったり、押したり、引いたりする経験をしないまま小学校を卒業してしまう傾向があります。せめて、体育授業では、意図的に経験させたいところですが・・・
平成に入ってからの体育授業では、個人のめあてを優先させよう、運動嫌いをつくらないようにしよう、というコンセプトから「自分のペースに合わせて、自分のやりたい運動を選んで学習しましょう」という形が主流になった印象が拭えません。
この風潮は、令和の時代になっても色濃く残っています。
これでは、子どもたちは、自分の全力がどれほどのものなのか、知らないまま中学校へ進んでしまいます。
近年、カッとなってナイフで友達を刺してしまうという信じられない事件が起きてしまうのも、自分や他人の体に対して、正しい接し方、理解がされていないことも無関係ではないような気がします。
相撲は、一対一で押したり、引いたり、足を掛けたり、様々な手を使って相手を押し出すか、倒すゲームです。
3年生の体育授業で相撲を指導していた時のことです。
J君は、「はっけよい、のこった」の合図があっても、どうしてよいのか分からずにオロオロしています。普段から大人しく、自分にやや自信の持てない気の優しい男の子です。
やがて、女子に勢いよく押し倒されてしまいました。見ると、べそをかいています。
体も大きく、力持ちなのに、その使い方が分からないJ君に、励ましながら、押し方や倒し方を根気強く指導しました。
すると、連敗街道まっしぐらだったJ君が、初めて相手を押し出すことができたのです。
この時は、学級中の子どもたちから歓声があがりました。この一番を機に、J君は連戦連勝です。ようやく自分の恵まれた体と力の使い方が分かったようです。
相撲は、力の使い方だけではなく頭や背中、お腹や股間など、絶対に攻めてはいけないところも経験を通して理解させてくれる運動です。頭で理解するのではなく、繰り返し、相撲をとっている内に、肌感覚で理解できるのです。自分で少々、痛い思いをして初めて相手の痛さも理解できるのです。
そして、思い切り力を出して、相手に夢中で向かっていく内に、情緒まで安定してくるから不思議です。相撲の授業をすると、教室での喧嘩が起きないのです。
☆夢中になって取っ組み合いをする相撲には、自分の体の使い方を理解させ、情緒も安定させる効果があるようです。本気になって全力で体を動かす機会は、中学年までにたっぷりと経験させましょう!