人生の師ー3(髙橋健夫先生)髙橋健夫先生から教わった研究スタイル
◆平成11年には、私のように現職教員のまま研修を受けていた者が6人いました。髙橋先生からは「先生たちの研究も大事ですが、研究室の学生さんたちのことも大事にしてください。仲良くしてやってください」と言われ、いよいよ研究に入っていきました。
当時、高橋先生の研究室には、全国各地から大学院や研究生として優秀な人材が集っていました。
皆さん、頭脳明晰で、ご自身も何らかのスポーツを経験されていらっしゃる方々です。
私達は、彼らの研究と自分の研究が重なりあう部分で協働したり、授業を提供する代わりに授業の分析を依頼したり、と互いの研究にプラスになるよう関わっていきました。
私は、現在、国士舘大学で教授をされている細越淳二先生とチームを組んで、低学年の跳び箱遊びについて、様々な角度からサポートしていただきました。
子どもたちの跳び箱を跳んでいる様子をビデオで撮影し、それをもとに動きをコマ割りにトレースしていただいたり、私が授業中に発した言葉や指導内容を記録したりしていただきました。
細越先生は、研究室の技官というお立場で、研究室のまとめ役を担っていらっしゃいました。人望が大変厚く、私が研究授業をする際には、多くの学生さんたちに声をかけてサポートしてくださいました。
さて、「学生さんたちと仲良くしてやってください」という髙橋先生の言葉は、実は髙橋先生の学生さんたちに対する接し方そのものでした。もちろん、研究内容については、妥協を許さない姿勢でご指導されていましたが、学生さんたちお一人お一人のおかれた立場や心情をよく把握されていて、血の通ったご指導をされていました。
特に、学生さんたちの進路については、人一倍気を遣われていました。
毎週、月曜日の夜は髙橋研究室の勉強会です。医師のカンファレンスに似ています。一人ひとりの研究の進捗状況を報告し、それについて髙橋先生から今後の方向性についてご指導いただくのです。
時には「この研究は、研究生の〇〇さんと重なる部分がありますから、一緒にデータを共有し、分析してください」という具合に、研究のサポート体制についても助言をいただくことがありました。
今までも、体育の研究サークルで発表し、一応の評価をされていたと自負していた私でしが、勉強会で発表した時、髙橋先生から痛烈なご指導をいただきました。
「どうも、現場の先生方は、自分の研究授業で良かったところばかり発表する傾向がありますね。研究授業をしてもできるようにならなかった子どもたちにフォーカスして、なぜできなかったのだろう?と考えた方がいいと思いますよ。他の先生方も、みんなその部分が一番知りたいはずですから」
私は、ハンマーで頭を叩かれたような衝撃を受けました。
確かに、今までは「こんなに子どもたちができるようになった、体育授業が好きになった。」と自分にとって都合のよい部分をアンケートなどで見繕って発表していました。
そして、それに対して称賛の声を期待していたのです。
しかし、これでは、自己満足の世界で到底研究と呼べるシロモノではなかったのです。
このご指導を機に、「研究とは、なぜ上手くいかなかったのか、その部分を明らかにする営みである」と胸に刻み込み、体育授業研究に携わっていくようになりました。
髙橋健夫先生から教えていただいた研究スタイルです。