髙橋健夫先生の授業研究 「教育は愛」No.134

人生の師

人生の師ー2 (髙橋健夫先生)髙橋健夫先生の授業研究

◆教師には、研修制度があります。種類は様々ですが、教員としての身分を保障されたまま、大学や大学院へ1年間または複数年、学ばせていただく研修もあります。

 私は、長期研修と呼ばれる研修で1年間、筑波大学の髙橋健夫先生に師事して体育科教育を研究する幸運に恵まれました。

 髙橋先生との出逢いは、その後の私にとって、生き方を大きく変えるきっかけとなりました。体育科教育はもとより、髙橋先生の人柄に魅了されて現在に至っています。

 私が特別支援学校から小学校へ異動し、体育主任を命じられた時、無我夢中で勉強しました。大学では、特別支援教育を専攻していたので、保健体育科の免許状は持っていません。 

 ですから、号令のかけ方から、準備運動の仕方等々、正しい方法を知らなかったのです。そこで、神田の書店へ行き、手あたり次第に体育科教育の本を買いまくったものです。

 やがて、地域の体育サークルで学ぶようになってから、体育科教育の研究に没頭し、体育授業を自分の得意分野としていきました。

 その頃、自分が手本としていたのは、高田典衛先生の文献でした。昭和40年代半ば以降、体育科教育研究が全国で盛んになったのですが、その礎を築かれ、学校現場から絶大な信頼を受けていた先生です。

 高田先生の書物は、教師目線で書かれていて、授業の具体的な場面を取り上げ、解説されていたので、授業にすぐ活用できました。

 また、文部省でもご活躍されていた高田先生は、全国の教育委員会の指導主事にも大きな影響を与えていました。

 高田先生の体育授業論は、的を射たものであったにもかかわらず、検証方法が一般化されていなかったために、客観性を欠いていることが指摘されていました。

 これは、体育学会で、ある大学教授が、「高田典衛の体育授業は科学的でない」という研究内容を発表されていた時に知りました。

 高田先生は、日本中の学校へ何度となく足を運ばれ、ご自身で記録をとり、分析されて書物に発表していたのに、学術的には認められていないことに私は、どこか割り切れない矛盾を感じていました。

この点を明確にクリヤーされたのが、髙橋健夫先生でした。

 髙橋先生も日本中の学校現場へ何度となく足を運ばれました。

 その時に取った膨大な記録から体育授業を客観的に評価できるツールを開発されたのです。「形成的授業評価法」と「診断的総括的授業評価法」です。

 これにより、私たちも自分の体育授業を客観的に評価できるツールを手に入れたのです。

 髙橋先生は、教師が独自に作成したアンケート評価による自己満足的な評価を一掃し、体育授業を科学的に検証できる研究の道を開いてくださったのです。

 髙橋先生は、体育科教育を科学できるようにして、子どもたちが評価する体育授業とはどのような授業なのか、研究を深められました。

 髙橋先生が研究雑誌にその成果を発表される度に、私達現場の教師にも大きな影響を与えてくださいました。

 私は、髙橋先生の授業評価法を自分の体育授業研究に取り入れ、検証を重ねました。

 髙橋先生の書かれた本は、いつしか私のバイブルとなっていました。

 そして、平成11年(1999年)、日本の体育科教育を牽引されていた髙橋先生に1年間、師事できる幸運を手に入れたのです。

 私の研究テーマは「子どもたちにとってよい体育授業の追求」でした。

 このテーマを聞いた時、髙橋先生は「ちょっと抽象的なテーマですね」と優しく微笑まれました。

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