実践主義を貫く魅力的な方 「教育は愛」No.26

コラム

コラムー4 実践主義を貫き理論を構築される魅力的な方

◆いじめや登校拒否、OECDの学力等、日本の教育について負の報道がされ、話題となると何処からともなく○○評論家という肩書の方が出てきて、今の学校教育や教師の姿勢について批判的なことを長々と評論されているのを見ると、悲しさを通り越し、怒りさえ覚えることがあります。

 「現場で汗水たらして頑張っている教師のことをわかってほしい」と叫びたくなるのは、私だけではないと思います。

 もっとも一億総評論家の時代です。多様なジャンルの評論家がいて、事ある度に難解な言葉を発しながら評論を繰り返します。その中には、ご自分で実践していないのに豊富な知識や一部の情報から現場の事象について分析し評論されている人を見ると失望してしまいます。

 確かにこのような評論家のお力も物事を進歩させる上で必要な力であることに間違いはありません。しかし、「事件は現場で起きている」という刑事ドラマのセリフの通り、現場の実践を実際に知っていることは、この上なく大切なことだと考えます。現場で汗と涙を流しながら歯を食いしばって努力している人たちが支持するのは、実践主義を貫いて理論を組み立てていく方です。

 日本の体育科教育を現場の実践を基に研究され、多大なる功績を教育現場に遺されたのは、筑波大学や日本体育大学で要職を務められた故高橋健夫先生です。

 高橋先生は、体育科教育に関する世界的規模の文献や理論を頭の中に納められた上で、教育現場での事象をつぶさに分析・研究されました。髙橋先生ご自身が日本中の学校へ足を運ばれ、実際に授業を参観され、データを蓄積されていたのです。

 高橋先生から語られる理論は、そのあたたかみのある話し方、話術の所為もあり、とても明快で分かりやすいものでした。理論の中に、髙橋先生のあたたかいお人柄が反映されているのです。

 そして、体育科教育の授業論にそれまで欠けていた科学的視点も見事に導入され、体育授業を客観的に分析出来る授業評価ツールも構築されました。高橋先生が発案された授業評価ツールは、著作権フリーで日本中の体育授業に携わる教師に広がり、体育授業の評価に活用され、校内の授業研究会から専門的な大学の研究室まで浸透し、体育学会等の学会でも広く議論できる素地を生み出してくれました。

 同じ評価基準で、日本全国の体育授業を参観・分析された高橋先生は、優れた体育授業について、専門誌や学会等で紹介し、「子どもたちにとってよい体育授業」のイメージを具体的に広めてくださいました。高橋健夫先生の存在と体育授業論は、現場で体育授業を担当する者にとっては正にバイブルであり、羅針盤でした。

 また、高橋先生ご自身もアスリートで、大学時代は、オリンピックの殿堂入りをされている加藤沢男先生と同じ器械体操部で競技経験があり、教職員の前では、理論とともに自ら器械運動を実演されながら実技研修会のご指導もされていらっしゃいました。

 そして、高橋先生の実践主義の姿勢は、授業だけでなく、職位や年齢に縛られることなく広く人々と気さくに交わり、明るい雰囲気の中で議論される姿にも表れていました。懇親会の席では、いつも嬉しそうに生ビールを片手に体育の授業論や教師論を語られていらっしゃったものです。

 高橋健夫先生は、人生でも人と現場を大切にされる実践主義に溢れていました。

◎人は、知識が豊富になり、役職が上がると、自然と偉そうになり妙な理屈をこねくり回してインテリを気取りたくなるものです。しかし、何か物事を進化向上させるためには、傑出した個人の力だけでなく、志を同じくする沢山の人たちが実践をもとに智恵を出し合い、絆を深めていくことが必要となります。その人たちの中心に座るリーダーには、現場の声や痛み、喜びを理解し、実践主義を貫く、高橋健夫先生のような魅力的な方が求められているのではないでしょうか。

 

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