生涯学習ー167 張本勲氏の訃報に寄せて
〜「一生ついて行く」と決意させた長嶋監督の『愛の叱責』〜
◆プロ野球界の偉大なレジェンドであり、テレビ番組での歯に衣着せぬ「喝!」でお馴染みだった球界のご意見番こと張本勲氏の訃報が届きました。前人未到の通算3085安打という金字塔を打ち立て、戦後の日本に勇気を与え続けてくれた大先輩の旅立ちに、心よりご冥福をお祈りいたします。
テレビ画面を通じて私たちに多くのエネルギーを届けてくれた張本氏ですが、その生き様や言葉の端々には、現代の教育現場にこそ必要な「愛ある指導」のヒントが深く刻まれているように思えてなりません。
今、学校現場では「どう子どもを叱るべきか」「どうすれば信頼関係が築けるのか」に悩む先生方が少なくありません。厳しい“御意見番”として知られた張本氏ですが、彼自身、現役時代に受けたある「強烈な叱責」が、生涯の師との出会いとなりました。今回はそのエピソードから、教育における“愛の指導”の本質を考えてみたいと思います。
孤高の天才を揺るがした「座れー!!」の一喝
巨人軍在籍時、長嶋茂雄監督のもとでプレーしていた頃のことです。
ある試合、1死一・三塁の絶好機で3番・張本氏に打席が回りました。 「俺ほどのバッターにスクイズのサインなど出るはずがない」 そう思い込んだ張本氏は、ベンチのスクイズのサインを見落とし(あるいは無視し)、突進してきた3塁ランナーの柴田選手が本塁でタッチアウトされてしまいます。
しかしその後、張本氏は見事にタイムリーヒットを放ち、チームは勝利しました。
ゲーム後、マネージャーから長嶋監督の呼び出しを告げられた張本氏。「結果を出したのだから褒められるだろう」 と軽い気持ちで監督室を訪れた張本氏を待っていたのは、鬼の形相の長嶋監督でした。
「座れー!!」
パ・リーグで何度も首位打者を獲得した孤高の天才を、長嶋監督は床に正座させました。
そして静かに、しかし圧倒的な迫力で告げます。
「お前がゴロを打ってダブルプレーになる可能性だってあった。 ヒットを打ったからいいという問題じゃない。 ベンチのサインは絶対だ!」
「結果オーライ」を許さない指導者の軸
普通であれば「勝ったんだから結果オーライ」で済ませてしまいそうな場面です。しかし長嶋監督は、組織の規律、チームへの責任という本質において、一切の妥協を許しませんでした。
結果ではなく、プロセスの乱れを正す。 その一貫した軸に、張本氏は逃げ道のない凄みを感じ、「この人は本物だ」と深く心を揺さぶられたといいます。
教育現場でも同じことが言えるのではないでしょうか。 指導者がその日の気分や「結果が良かったから」という理由で態度を変えてしまうと、子どもは大人の背中を見透かします。 一貫した軸こそが、子どもの信頼を勝ち取る第一歩なのです。
叱責の根底にある「敬意と期待」という愛
この正座の猛説教を受けたとき、張本氏は怒りや反発を覚えるどころか、
「リーダーとしての長嶋さんに惚れ込み、一生ついて行こうと決意した」
と語っています。
なぜ、プライドの高い天才打者がそこまで心を動かされたのでしょうか。
それは、長嶋監督の叱責の根底に、張本氏への最大の敬意と、 「お前ほどの男がこれでは困る」 「将来、お前が指導者になったときのために」 という未来への期待が流れていたからではないでしょうか。
子どもは、大人が 「ただ従わせようとして怒っている」のか、 「心から成長を願って叱っている」のか、 驚くほど敏感に察知します。
厳しい言葉であっても、その根底に確かな信頼と愛情があれば、叱責は子どもの心を拓き、生涯にわたる絆を生み出すエネルギーへと変わります。
未来にGrande!
厳しさのなかに、最大のリスペクトと愛情を込めること。 私たち教員も、時には「喝!」を入れるような厳しい指導が必要な場面があります。
その時こそ、
「自分は目の前の子どもの未来をどこまで信じられているか」
と自らに問い続けたいものです。
張本氏が遺してくれた不屈のスピリッツ、 そして彼を支えた長嶋監督の「愛の指導論」が、私の胸を揺さぶります。そして、常に真剣に、子どもたちの明るい未来を願って、子どもたちと真っ直ぐ向き合っていこうと思います。
教師の皆さん、子どもたちが 「この先生について行きたい」 と思えるような、軸のある温かい教育を頑張ってみませんか!
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